焦らずじっくり。子どもの将来を見据えてトレーニングを
小学生は筋トレをするよりも外で走り回るのが大事
パーソナルトレーニングジム「GROUND RULE.」には、時々親御さんから「小学生にもトレーニングをしていただけますか?」と、問い合わせが来ることがあります。
熱心な親御さんが、プロスポーツ選手を夢見るお子さんの後押しをしたくて連絡してくださっているのだと思いますが、当ジムでは小学生に対するトレーニングは基本的に行っていません。なぜなら、スポーツ医科学的な視点から見ると、小学校時期にすべきは筋トレや体幹トレーニングなどではないからです。それよりも、この時期にすべきであるもっと大切なことがあります。
それは、「思いっきり体を動かして遊ぶこと」。「そんなことが?」と思われるかもしれませんが、実は小学校期の体づくりにとっては、非常に重要です。
子どもたちが外を駆け回ってする「遊び」には、「投げる」「取る」「蹴る」「走る」「ジャンプする」「転がる」「打つ」「回る」「掴む」など、さまざまな運動要素が詰まっています。この時期に、そういった運動体験をたくさんすることは、体の中に「体の動かし方」の引き出しをたくさん作ってあげることにつながるのです。
年代ごとに発達する器官が異なる。成長に合わせた運動を
実は小学校は、骨格や筋肉ではなく神経系の発達が著しい時期です。下記の表は、生まれてから20歳までの発達・発育を示しています。これはアメリカの医学者・人類学者であるスキャモンが発表した「発達・発育曲線」ですが、これを見ていただくと、骨格や筋肉の成長を測定した「一般型」は20歳に向けて緩やかに成長しているのがわかります。
スポーツ庁「子供の体力工場課題対策プロジェクト」より抜粋
一方で、「神経型」はおおむね10歳〜12歳で成長のピークに達しています。この「神経型」が発達する時期に、いわゆる「運動神経(体を動かす神経)」も育ちます。ですから、その頃までにたくさん体の使い方に関する情報を与えた方が、吸収率が高く、「動ける体」になるということです。
早くトレーニングをさせたがる親御さんは、英才教育的な思考で、「少しでも早く専門的なトレーニングをした方がいいのではないか」と考えるのだと思いますが、決してそういうわけではありません。大事なのは、体の発達や発育に合わせた運動をすること。「神経型」の成長がある程度終わってしまうと、その後に新たな動きを身につけるのはなかなか難しくなるので、小学校の時期はさまざまな体の動きを身につけた方がいいのです。もちろん平行してスポーツに取り組むことは良いと思います。
実際、プロのスポーツ選手でも、小学校の時期に特定のスポーツばかりしていた人は、そのスポーツ以外の動きが下手だったりします。例えば、サッカー選手は運動神経抜群に見えますが、ボール投げをすると全然遠くまで投げられない、なんてことも。もちろん、確実にサッカー選手になれるならそれでもいいかもしれません。しかし、プロになれるのは一握りの人だけ。そう考えると、体全体を上手に使えるようになるほうが、将来的にいろいろなスポーツを楽しめると思いませんか?
また、体の使い方が上手でないと、大人になった時にケガをしやすくなります。なぜなら、「運動能力が高い」ということは、「体のキャパシティが大きく、ケガしにくい柔軟な体になる」ことでもあるからです。
それでも、「せっかくだから小学校の頃から何か習わせたい」と思うなら、広いところで行う陸上教室や体育教室などがいいのではないでしょうか。「パルクール」や「ボルダリング」のような、全身を使って障害物をよじのぼるものなどもいいかもしれません。大事なのは、部分的なトレーニングではなく、全身を使うこと。このことを意識して習い事を選んでください。もちろん、競技スポーツを行ってはいけないと言うことではありません。競技スポーツと並行して様々な運動体験が重要になるという事になります。
小学校時代はテクニックをつけるよりも体の土台づくりを
小学校の頃から、野球やサッカーなど、特定の競技を熱心に行っている子も多いと思います。その場合、指導者がどの程度体づくりに関する専門知識を持っているかも重要なポイントです。
コーチや監督の多くは、そのスポーツに関する専門的な知識や技術、経験は持っていますが、子どもの体づくりの基本までは知らない方も少なくありません。そういった方が指導をすると、教える内容が「スポーツスキル(テクニック)」に偏ってしまいます。しかし、体を動かすための「運動スキル」が育っていない子に、テクニックばかりを詰め込んでもうまく使いこなせませんし、ケガにもつながります。だから、指導者や周りの大人が子どもの体づくりに対して、知識を持って理解しておくことが重要なのです。
とにかく、小学校時代は「体の土台づくり」の時期。そう心得ておきましょう。
もっとこのあたりの話しを詳しく知りたい、理解したいという方は、私も以前セミナー受講させて頂いたことがある、小俣よしのぶ先生の著書「スポーツ万能」な子どもの育て方などが非常に参考になリます。是非ご覧ください。
専門的なトレーニングは中学生から。しかし、成長期はケガに注意を。
専門的なトレーニングをするなら、何歳ごろが適しているのか。それは、その競技のピーク年齢から「マイナス10歳」くらいの年頃からだと言われています。例えば、サッカー選手のピークは概20代前半。そこからマイナス10歳なので、中学生くらいから徐々に準備をしていくのが良いということです。そのため、テクニックを身に付けたり、徐々に筋力や体力をつけるためのトレーニングを始めるなら、中学生から。小学校までは遊ばせることがメインのサッカーでいいと思います。
ただし、中学生にトレーニングをする場合、成長期には注意しなければなりません。下記の表は「身長発育速度ピーク年齢(PHV:ピークハイトべロシティ)」を示したもので、男女それぞれの成長期のピークがどの年齢に来るかを表しています。
身長が伸びるということは、骨が伸びているわけです。しかし、筋肉の伸長は骨よりも1年ほど遅いと言われています。そのため、柔軟性が高く素早い動きなどもできていた子も、成長期のピークを迎えて急激に背が伸びることによって、柔軟性が衰えたり動きが鈍くなったりしてしまいます。この状態を「クラムジー」と言います。急に体が思うように動かなくなるので、その時期は非常にケガもしやすいので注意が必要です。
中には、中学生から高校生にかけて、大人のような体格になる子がいます。そういった早熟タイプの子は体が大きい分、パワーもつく。となると、一時的に他の子よりもうまくなったように感じるし、その時期に上級クラスに入れられたりしがちです。しかし、その子も「クラムジー」の時期なので、やはりケガをしやすいので注意しなければなりません。上級クラスに入れられたことで、無理をして体を壊してしまうこともあります。
このように、中学生は変化が大きい年頃なので、専門的なトレーニングやケアができる人がいる環境だといいですね。そういう人が近くにいてくれると、安心してスポーツに打ち込めると思います。
10代は段階を踏んだトレーニングが大事。
「GROUND RULE.」では中学生から指導を行っていますが、熱心な親御さんから「中学生だし、もっとガンガン鍛えてください!」と言われることもあります。しかし、中学生はまだそういう時期ではありません。中学時代は、まずは運動を楽しみつつ、次のステップに徐々に向かう時期。決して慌てて鍛えないようにしましょう。
まずは体の動きをしっかりチェックして、その中で弱い部分を少しずつ鍛えていくのがベスト。もちろん個人差はありますが、大まかに言うと、中学生は心肺機能をしっかり高めて、高校生になる頃から筋トレといった具合です。徐々にレベルアップをしていきましょう。
- 発育発達期(10歳ぐらいまでを目安に)
走る・跳ぶ・投げる・蹴るなどの基礎となる運動の技能やスポーツにつながていくための前提条件を築き上げる
- 基礎トレーニング期(10歳〜14歳ぐらいを目安に)
60〜70% 基礎的なコーディネーショントレーニング
30〜40% 競技専門的なコーディネーショントレーニング
を組み合わせる
- 発展トレーニング期(15歳〜18歳ぐらいを目安に)
70〜80% 競技専門コーディネーショントレーニング
精神的・肉体的な面を効果的にチューニング
※身体の成長によって個人差を考慮していく必要があります
周囲の大人が正しい体づくりの知識を身につけて
若い頃に無理な運動をしたことで、腕が曲がらなくなってしまった人や腰の骨を折ってしまった人も少なくありません。親であれば、自分の子どものことを「甲子園に出られれば、肩が壊れてもいい」「花園に出られさえすればその後のことは考えない」なんて考える方はいないと思います。私たちも、未来ある子どもたちには、長い人生をケガで苦労して過ごすのではなく、健康に一生スポーツを楽しめる人生を送ってほしいと願っています。
成長過程にある子どもの体は、大切に育んでほしい。ですから、親御さんや子どものスポーツに関わる方々には、ぜひ正しい知識を身につけて、子どもたちの体を守ってあげていただきたいと思っています。
編集者:矢野 耕二